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土屋ゼミ2015年度 <第5回>高校野球と報道(前編) 

  土屋ゼミ6期 谷所

 2015年、夏の甲子園に怪物選手が現れた。ご存知、早稲田実業高校の清宮幸太郎選手だ。一年生にして夏の甲子園はスタメンフル出場。すべての試合で安打を記録し、打率は驚異の0.474。この大会だけで二本塁打を放ち、高校入学後四ヶ月の通算本塁打数は13にもなる。高校三年生にも負けないほどの成績だ。
 しかしそれにしても、今年の高校野球報道はあまりに清宮選手一色ではなかったか。清宮だけではない。今まで高校野球では数年に一回ペースで、一人のスター選手に対するフィーバーが発生している。たった一人の高校生に報道が集中するこの現象の背景には、いったい何があるのだろうか。 そこで今回は二部構成で、今までの高校野球のスター選手に関わる報道を分析し考察したい。前編であるこの記事では、計量分析及び内容分析により夏の甲子園を賑わせてきたスター選手たちの報道のあり方を調べ、また今年の清宮報道の特徴も明らかにした。(以下敬称略)

≪参考リンク→調査対象と方法


○記事数から見る

≪参考リンク→計量分析の方法と結果

 高校野球のスター選手の報道は、三つの時期に集中する。選抜高等学校野球大会(春の甲子園)、全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)、そしてプロ野球ドラフト会議だ。 各スター選手の記事数の推移 ≪リンク:表1表2≫ を見ると、記事の絶対数には個人差があるものの、記事数が急増する時期は毎年3-4月と7-8月、そして三年生のドラフト開催月に集中していることが見て取れる。
記事数の推移については、もう一つ興味深い法則があった。春・夏の甲子園で一度でも記事数が急増した選手は、それ以降すべての春・夏甲子園で記事数が再度急増する。例えば、表1のダルビッシュの記事数を見てほしい。一年生の3月までの関連記事は一本のみだが、一年生の3月に春の甲子園で記事数が20本近くまで増えると、それ以降の春・夏甲子園では必ず記事数が20本以上まで急増するようになった。表2の各選手にも軽微ながら同じ傾向がある。一度注目を集めた選手はその後もマークされ続けているのかもしれない。

 一方、清宮幸太郎の記事数の推移は、他のスター選手報道と違った特殊な動きを見せている。第一に、一年生の4月段階で関連記事が掲載されているのは清宮ただ一人だ。 他のスター選手に比べ、かなり早い段階で注目を集めている。 そして第二に、夏の甲子園の時期の記事数は一年生としては異例の本数を誇る。 8月で50本という記事数は、他のスター選手が三年生になって記録した記事数と同水準だ。 清宮の報道の特殊性は、早い段階から三年生並みの注目を集めたことにあるようだ。



○記事内容から見る

≪参考リンク→内容分析の方法と結果

 では、高校野球のスター選手の記事内容にはどのような特徴があるのだろうか。 本当にスター性のある選手を、その魅力や特徴の面から個別に描写しているのだろうか。 それとも、もともと一般受けする理想的高校球児像が先にあって、そこに現実の選手を当てはめているのだろうか。
 結論としては、既存の理想像に選手を当てはめているとは推測できなかった。 各選手の記事の特徴語を見てほしい。

≪参考リンク→各選手ごとの共起ネットワーク図

 どの選手にも明らかに共通している語はなく、共起ネットワークの形もバラバラだ。 特に、斎藤佑樹(図3)と田中将大(図4)の特徴語が興味深い。 2006年夏の甲子園ではライバルとして並び称された両投手だが、田中関連の語が散見する斎藤の共起ネットワークに比べ、田中の共起ネットワークには斎藤関連の語がほとんどない。 同じ大会を、同じくらいの野球強豪校から、同じ投手として出場した二選手ではあったが、記事内容はそれぞれ異なっているのだ。 このことからも、高校野球報道ではスター選手への安易なレッテル張りを避けていることが伺える。

 再び清宮の報道に注目して欲しい。(図1) 報道で取り上げられた清宮の特徴の一つ目は、清宮がホームランを打てる強打者であったことだ。 図1で“清宮幸太郎”が“放つ”に、“放つ”が“本塁打”に、“本塁打”が“清宮選手”に繋がっていることから、清宮の注目すべき特徴として本塁打がクローズアップされていたことが分かる。 他の五選手が投手であるため比較検証は困難だが、各投手の能力が具体的に把握できる記述は図2で大谷翔平の球速“160キロ”が唯一である。 図5のダルビッシュの共起ネットワークにおける中心語が“投手”であることや、 図6の松坂大輔の共起ネットワークでは “松坂大輔投手”に“西武”“プロ野球”などが結び付けられていることなどから考えると、清宮は具体的な能力に注目されているという点でやや特異だ。
 二つ目はやはり、清宮が一年生であったことだろう。 図1で“清宮幸太郎”に結びついた“1年生”は“騒ぐ”“打つ”“注目”などと結びつきを持っており、媒介中心性の高い語として表れている。 また、この“1年生”という語は円がやや大きいことから、出現回数が比較的多いこともわかる。 一方、他の五選手には学年を特定する語は見当たらない。一年生が騒がれていること、一年生が打っていること、一年生が注目されていることこそが、清宮の特徴であったようだ。


○まとめ

 記事数と記事内容を調べた結果、わかったことは以下の通りだ。

・一度注目を浴びた選手が、その後注目されなくなることはない。
・スター選手報道にテンプレートは存在しないが、具体的な能力に言及した報道は少ない。
・清宮報道は、一年生としては異例の報道数を誇る。
・清宮報道では、清宮の能力のほか清宮が一年生であるという事実そのものが報道の対象であった。

 これらの結論を踏まえたうえで、後編ではさらに個別具体的な取材背景に迫る。 取材する側は、そして取材される側は、スター選手報道にどのような姿勢で臨むのだろうか。


≪後編記事へ→土屋ゼミ年2015年度<第7回>高校野球と報道(後編)




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