1. トップページ
  2. 特集・東日本大震災と早稲田大学 <第ニ回>東日本大震災による早稲田大学のスポーツイベント等への影響 竹原雪乃[2011/7/7]

特集・東日本大震災と早稲田大学 <第ニ回>東日本大震災による早稲田大学のスポーツイベント等への影響 竹原雪乃[2011/7/7]

 プロ野球の開幕延期やフィギュアスケートの世界選手権の日本開催の中止など、東日本大震災は日本のスポーツ界にも大きな影響を与えた。多くのアスリートを輩出し、大学を挙げてスポーツを盛り上げてきた早稲田大学もその影響を多分にもれず受けることとなった。年度替わりの3月に日本を襲った今回の震災。卒業生を見送り新入生を迎え、新体制を整えていた早稲田のスポーツにはどのような影響があったのだろうか。

地震直後の動向

 3月11日から一週間ほどの間、大学側から練習や試合など一切の部活動は禁止された。活動再開の時期は特に指示されたわけではなく、各部の判断に委ねられたようだが、一週間ほどで再開することが出来たところもあれば、交通機関の乱れや原発事故による放射能の影響を考慮し数週間にわたって活動を自粛したところもあったようだ。通常体育各部の活動の休みは週に1,2日なので、思いがけないまとまったオフ期間となったことだろう。
 アイスホッケー部では地震当日に、早稲田との交流試合のため来日した高麗大学の選手たちが被災したそうだ。宿泊予定だった池袋のホテルに行くことが出来ず、早稲田の紺碧寮で、毛布一枚で夜を明かし翌日の便で緊急帰国したという。
 またラクロス部では活動再開時に、非常時の避難場所や対応が念入りに確認されたという。

中止・延期または変更された早稲田大学に関係する主なスポーツイベント
(野球)  春季オープン戦 一週間ほど中止
(ボート) 第80回早慶レガッタ 延期・会場変更
(弓道)  筑波大学定期戦 中止
(水泳)  第87回日本選手権水泳競技大会
           中止→代替としてチャリティー大会を開催
      第83回早慶対抗水上競技大会 延期
(陸上)  第14回日本学生ハーフマラソン選手権大会 中止
      関東学連春季オープン競技会 中止
(ラグビー)
      全早慶明三大学対抗戦 中止→チャリティーマッチとして開催
      定期戦・高麗大戦 中止
(アイスホッケー)
      秩父宮杯関東大学アイスホッケー大会 中止
      第2回日韓交流試合 中止
      第57回早慶アイスホッケー定期戦 →チャリティーマッチに変更
(サッカー)
      東京都女子サッカー大会 中止
(卓球)  第63回東京卓球選手権大会 中止
      第24回アジアカップ2011 中止
      立川オープン 中止
(空手)  東京六大学戦 延期
(バレーボール)
      関東大学春季リーグ戦 中止→代替として交流戦、強化試合を実施
(アメフト)
      第59回早慶アメリカンフットボール対抗戦 →チャリティーマッチに変更
      アサヒビールシルバースター戦 →チャリティーマッチに変更
(ハンドボール)
      関東学生ハンドボール春季リーグ戦 延期
(準硬式野球)
      六大トーナメント 中止
(自転車) 第45回早慶自転車競技定期戦 中止
(バドミントン)
      関東学生バドミントン春季リーグ戦 中止
(アーチェリー)
      関東学生アーチェリー連盟男女リーグ戦 延期
(ソフトボール)
      第43回東京都大学春季リーグ戦 延期

 情報を集めることが出来た中でもこれだけの練習試合や公式戦が中止、延期されたり、会場の変更、またチャリティーマッチなどに形を変えての開催となったりしている。新たなチーム体制を整え準備していた時期でのこうした試合の中止や延期は、調整を重ね士気を高めてきた選手たちにとって大きな痛手となったと思われる。

試合への影響

 試合の実施においても諸々の制限や変更が伴った。スケジュール上の関係や節電などのため、試合時間が短縮されることがあったようだ。大会など数日間にわたって行われるものでは、実施期間を短くされるなどしたケースもあった。
 ハンドボール部のリーグ戦ではゴールデンウィークの一週間に5試合も行わなければならず、タイトスケジュールになってしまったという。
 また剣道部では、関東学生選手権の男子個人・女子個人が当初の予定通り別々の日程で開催されたが、大会運営側では男女同時開催にして全国への出場者を減らすという話も出ていたそうだ。
 会場の面では、予定されていた会場が避難場所とされてしまっていたケースがあったようだ。また計画停電や節電への対策として、会場を太陽光の入りやすい場所に変更するなどの措置がとられた。
 さらに、試合会場では各部によって震災の復興支援のためにさまざまな活動が行われている。アメフトやサッカーなどの試合では、試合開始前に黙祷がささげられた。選手たち自らがチャリティー活動をし、義援金を募る姿も多くの会場で見られたようだ。
 ハンドボール部では今年のインカレが岩手で開催予定であることと、キャプテンが岩手出身であることもあり、チャリティー活動を行ったという。

練習への影響

 試合と同様、日々の練習にも震災の影響は及んでいる。
 大学側からの禁止や自粛によって練習を行うことが出来ない期間が出来てしまったため、年間を通した練習スケジュールに支障を来し再検討しなければならなかった。また大学側から練習時間についても変更の指示があったため、練習スケジュールの調整が必要になったという。さらに選手の中には自宅から通っている人もおり、交通機関が安定しない間はすべてのメンバーが集まることも困難だった。活動が再開された当初はさまざまな面で混乱があったようだ。
 また、大学側からは施設の利用についても制限された。計画停電の影響で練習場が使用できないこともあったようだ。現在でもまだ節電のため、練習場の照明を減らすなどの対策が多くの部でとられている。

末吉智一さんへのインタビュー

 末吉智一さん(写真)は、現在私たちと同じく早稲田大学政治経済学部に在籍する大学4年生。米式蹴球部BIG BEARSに所属しており、アメフト日本代表候補に3年連続で選出されるなど、大学生にしてアメフト界でトップレベルの実力を持つ選手である。そんな身近にいるトップアスリートに今回の記事執筆にあたってご協力いただくことができた。震災発生後の練習・試合への影響、心境を伺った。

竹原:震災直後のアメフト部の様子を教えてください。
末吉:地震が起きた当日はすぐ練習を中止し、メンバーは早急に自宅に帰らせました。しかし一週間後にはチームで練習を再開したので、練習への影響はそれほど大きくなかったです。練習場のある東伏見には他の部も多くいるのですが、他の部はやっていないところも多かったです。部員の中には電車が動かなくて来られない人や、実家が被災したために復興の手伝いに帰る人もいました。

竹原:やはり混乱や戸惑いはありましたか。
末吉:計画停電や交通機関など大変な中でやってていいのかという思いはありました。そういう思いを抱いていた人もいたと思います。雨の日の練習の時、ご両親が放射能の影響を心配して来ることが出来ないメンバーもいました。

竹原:活動にはどのような影響がありましたか。
末吉:練習試合の中止や、合同練習の延期はやはりいくつかありました。公式戦は、毎年4月29日に行われる早慶戦と、5月5日のシルバースター戦がチャリティーマッチという名目に変わりました。また募金活動とキックオフ直前に黙祷が追加されました。

竹原:普段とは違う試合になったと思いますが、感じたことなどありましたか。
末吉:普段なら春の試合は、各選手が自分のプレーでチャレンジをしたり、新しいチームを試したりする場です。しかし一分間の黙祷をした時、これはいつもみたいにチームが成長するためだけの試合じゃなくて、被災地や日本に感動を届けるためのものなんだな、勇気づけるためのものなんだなっていうのは、強く感じました。

竹原:練習の面で普段と違う出来事はありましたか。
末吉:地震の影響でグランドが使えなくなり、チーム部員も被災して集まることが出来なくなった東北大学のアメフト部のメンバーの3人がうちの練習に混ざってやりました。彼らは一時的に東京に避難していた人たちで、二週間後にはまた現地に戻り、現在も復興作業しているようです。また、社会人チームのオービックシーガルズのグランドも液状化し使えなくなったため、うちのグランドを借りて練習することもありました。シーガルズの中には日本代表選手が多く在籍しており、この機会にアメフトのテクニックを教えていただく講座を開いてもらい、とてもよい勉強になりました。

竹原:練習に具体的な制限は出てきましたか。
末吉:計画停電の影響でグランドの照明が使えなかったり、ケアする時に使うホットパックを温める機械や、製氷機も使用出来なかったと思います。

竹原:練習に支障が出てきたことによるご苦労はありましたか。
末吉:時間の制限でミーティングが出来なかったり、ウェイトが出来なかったりしました。アメフトの練習はいつも練習とミーティングを繰り返すので長いのですが、時間が短くなったことで逆に集中でき、効率的に練習するようになったとも感じています。時間や環境の制限があっても、日本一を目指す以上全力でやろうという気持ちでした。

竹原:『やってていいのか』というとまどいはどのように乗り越えられたのですか。
末吉:為末大さんのブログが大きかったです。(為末大オフィシャルサイト「侍ハードラー」:アスリートにできる事http://tamesue.cocolog-nifty.com/samurai/2011/03/post-c95f.html)日本代表のメーリスが回り、阪神大震災を経験なさったコーチもスポーツの持つ力を語ってくれました。こんな時に練習していいのかと思っていたし、やれと言われたからやるしかないと投げやりな気持ちになっていましたが、アスリートにしか出来ないことがあるんだ、そのために今は本気で練習をやるべきなんだと思いました。ボランティアに行くことは、今行っても混乱を招くと禁止され、それよりも練習に集中しました。他の大学が練習をやっていなくても、その分勝とうと鼓舞し合いながらやりました。為末さんのブログがあったから頑張れたと思います。

スポーツが出来ることへの「感謝」

 日本が未曽有の災害にある中でスポーツをすることに疑問や葛藤を抱いていた人も少なくなかったようだ。こんな時も練習しなくてはいけない集団なんだ、日本一を目指すとはこういうことなのか、と自覚したという。
 周囲の協力や支援があってこそスポーツは成り立っている。早稲田大学でスポーツに取り組む学生たちは震災を機に、普段応援し支えてくれる人々の存在や、スポーツに打ち込むことのできる恵まれた環境のありがたさを改めて感じたのではないだろうか。

参考
早稲田大学競技スポーツセンターHP http://www.waseda.jp/athletic/
早稲田スポーツHP http://www.wasedasports.com/
早稲田大学体育各部のHP

ご協力くださった各部の皆様ありがとうございました。

カテゴリ別記事

シリーズ・放送人インタビュー2011