「2011年3月11日、私が22年間生きてきた中で体験したことのないような地震、そして津波が東日本を襲った。ただならぬ様子を察し、駆け足で駅前の広場に群がる人々の喧騒が脳裏に焼きついている。
未曾有の災害は日本に大きな爪痕を残し、未だ復興への道のりは長い。被災者の生活の再建、真夏における電力不足への懸念、未だ収束に至らぬ原発事故、食物や水の放射能汚染への恐怖。大震災が日本へ与えた影響を挙げるときりが無いが、その中で私は、今回の震災による主に首都圏の各大学機関への影響を調べようと思う。
震災の後、まず直接的な影響として表れたのが卒業式の中止である。慶応義塾大学が3月23日に予定していた卒業式を「把握している限り初めて」(同大広報室)中止することを決定した。次いで早稲田大学も同月25、26日に予定されていた卒業式を中止。大学紛争で商学部を除く全学部で中止した1966年以来実に45年ぶりである。この他にも首都圏では上智、学習院、明治、中央大などが卒業式を中止している。中止の理由として、「計画停電による交通混乱や余震が予想される中、式に出席する新入生と保護者の安全確保が難しいと判断した」と早稲田大学広報課は述べている。東京大学では、各学部の総代12人のみによる簡略化された卒業式が行われた。中には、ツイッター上で卒業式を行う(恵泉女学園大)などの措置を取る大学もあった。
卒業式に続き、入学式も続々と中止になった。関東地方では計画停電や余震を懸念して入学式の中止又は延期に踏み切る大学が、369校のうち約80校に上った。東北地方では77校のうち約50校が入学式の中止・延期を決定した。
震災は各大学の授業日程にも大きな影響を与えた。国公立大24校と、東北・関東・甲信越地域の私立大約90校が、授業の開始時期を遅らせた。物理的な被害が大きい東北の大学はほとんどだが、関東の大学も約2割程度が遅らせることとなった。交通事情や計画停電を考慮して、というのが主な理由である。早稲田大学は、全学的に前期の授業開始日を4月6日から5月6日に遅らせた。慶應義塾大学も当初より一ヶ月程開始を遅らせ、東京大学は学部によって対応が分かれた。各大学も、授業時間の確保を懸念したものの、文部科学省は3月25日付で各大学に、前期は15週だが、震災の影響で開始時期を遅らせる場合は、レポートやウェブによる授業などの工夫で弾力的に対応できる趣旨を通知した。
真夏の電力事情を考慮して、夏休みの開始を前倒しする大学も多く見受けられる。名古屋大学は浜岡原子力発電所の運転停止を受け、前期試験を実施してきた8月第1週を休みにして節電に協力することを発表した。試験は7月中に終わらせ、土曜に授業をするなどして対応する。上智大学は当初7月25日までとしていた授業期間を2週間短縮し、7月11日までとすることを決めた。「7月は冷房などで大幅に電力使用が増加する。使用電力を抑え、教育研究活動を予定通りに運営することは非常に困難」と大学側は述べる。
相次ぐ原発の稼動停止を受け、大学機関も節電に必死だ。教室の照明やエアコンに、大規模な実験設備、大学も大企業同様電力の大口需要家である。文部科学省の調査によれば、都内の国立大学の電力使用量は東京大学がトップで、一ヶ月の平均電力使用量は約1800万キロワット時に上る。これは東京ディズニーリゾートの約1750万キロワット時を上回り、一般家庭約6万世帯分に相当するという。文部科学省によると、東京電力と東北電力管内には、国公立、私立合わせて4年制大学が約300ある。政府の電力需給緊急対策本部の決定を受け、文部科学省は16日、各学長あてに今夏の使用最大電力の15%削減を求める通知を出した。但し、付属病院がある大学は削減率が緩和される。
各大学は先に述べた夏休みの前倒し、サマータイム制導入の検討、研究用のコンピュータの電力使用抑制などに知恵を絞り、節電に努めている。大学構内を歩いていても節電の努力が随所にうかがえる。
前期の授業を通常通りのスケジュールで実施した東洋大学などは、授業時間の確保に追われず、真夏の電力使用にも幾分余裕が出来るようである。ただ、地震直後の状況を思い返せば、先のことなど何一つ分からない状態であり、授業開始時期の延期が裏目に出たとしても各大学を責めることは出来まい。現状のままだと、夏だけではなく冬にかけても電力不足が懸念されるであろう。今後、学業、研究と節電の両立をどのように図っていくか、各大学の知恵が試されることとなる。
参考
『読売新聞』 2011年3月18日付東京朝刊
『読売新聞』 2011年3月24日付西部夕刊
『読売新聞』 2011年3月25日付東京夕刊
『朝日新聞』 2011年3月19日付夕刊
『朝日新聞』 2011年4月4日付夕刊
『朝日新聞』 2011年5月25日付朝刊
『週刊アエラ』 2011年5月16日号