日本では毎年3万人弱の人間が自殺をしている。彼らの年代は子供からお年寄りまで様々であるが、私は10代の「いじめ」による自殺に注目した。「いじめ」の詳細については、自殺を起こした後になっても全てが明らかになることは少なく、学校側もいじめの事実を認識していないことが多々ある。いじめに気づかない、いじめを防げない、いじめを止められない、場合によっては先生が生徒にいじめられるという現状がある。学校のシステム不備やクラス間の不透明性などの原因も挙げられるが、一番の問題はやはり教師にあるのではないだろうか。学校において生徒の一番近くにいるのは教師であり、子供達をコントロールしうるのも教師しかいないからだ。
おそらくほとんどの人は、これまで十数人の先生と出会ってきていると思うが、彼らに対してはどのようなイメージをもっているだろうか。生徒達から頼りにされ、その気持ちに全力でこたえようとする先生、熱血体育会系のような熱い先生、はたまた犯罪を犯して新聞の一面をかざるような先生まで様々である。
今回、私は自らがお世話になった先生へのインタビューを通じて、いじめ問題や先生の苦悩について現場の声を伝えたいと考えた。
インタビュー日時:2013年3月28日、場所:埼玉県某公立中学校、インタビュー協力者:Y先生(教師歴30年、英語担当)
--------------教育実習だけでは不十分なことも
仲村:教師になられてからの話ですが、新人時代に周りからどういう教育を受けましたか。
Y先生:教員って新任研修というものがあるんです。今の人達の方が私達の時よりも、はるかにたくさん研修するんですけど。具体的には指導法とかのレクチャーを受けるんです。でも、私が思うにはレクチャーを受けるよりも生徒と触れ合ったほうが学べると思います。
仲村:新人時代というと何も分からない状態だと思うのですが、その出来ない状態で何をやろうと意識していましたか。
Y先生:うーん。まず私はインターン制みたいのが必要だと思うんです。臨時採用の方というのは一年間経験出来ますが、大学を出て試験に受かればすぐに教壇に立って、他の教員と同じなわけ。今の現場としてそれぞれの教員がそれぞれの現場を持っているから、マンツーマンで教えるということが中々難しいんです。それでも親や生徒は一人前の教師と見るわけ。やっぱり結構キツイと思います。その時は授業も初めて。私は授業を組み立てるのが精一杯で生徒の反応を見る余裕はありませんでした。でも、やっぱり授業というのは生徒の反応という呼吸の中で作り上げてくものだから、余裕がないと難しいのかなと思います。
仲村:だから実習だけではなく、長いインターンがあったほうがいいんじゃないかと。
Y先生:そうそう。大学を出たばかりの22歳への負担は大きいですよ。子供の後ろには親もいますしね。
昔に比べれば授業のスリム化や指導法の確立などは進歩しているが、分かりやすい指導法だけを身につけたければ、予備校の先生達に弟子入りすればいい。学校の先生に求められることは、分かりやすい指導に加えて、生徒達とどのようにコミュニケーションをとり、心を通じ合わせるかという人間力的な部分が大きいのではないだろうか。それが3~4週間の短い練習期間だけで、あとは任せたと本番に投げ込まれる新人先生の苦労が大きいことは容易に想像できる。教師という職については採用枠拡大や最近の公務員志向などでその人気は上がっており、地域にもよるが人が足りなくて困っているということはあまりない。それならじっくりと時間をかけて育てて、全体としての質を上げた方がいいのではないだろうか。
先生への負担は実際数字でも表れており、政府統計によれば小中学校の20代教員の離職率は20%を超えている。大学で教わること、採用試験で問われることが身についていても、現場では十分に力を発揮できるようにはなっていないので、理想とのギャップやストレスを感じて辞めていく人が多いと考えられる。
--------------いじめ解決の第一歩はコミュニケーション
仲村:いじめのないクラスを作るにはどうしたらいいのでしょうか
Y先生:仲良くなることだよ。生徒と教員もだし、生徒同士が。だからコミュニケーションをたくさんとらせるために、班活動を充実させることかな。例えば、これは私のやり方だから正しいのかは分からないけど、給食一つとってもじゃんけんして片付けさせる。それはじゃんけんをさせることで会話が生まれるじゃない。皆で声をかけて、勝った負けたで一喜一憂できるじゃない。そういう所でコミュニケーションが生まれるとすぐ仲良くなる。
仲村:言われてみるとそうでしたね。
Y先生:そう。で、そこに私も入るでしょ。前で食べるのではなくて、班を回って色んな話を生徒と出来るのよ。私が行くとおとなしい子にも話をふれるし、その子の反応を見て、周りも新たな発見があるから。だけど、ただやらせればいいわけじゃない。そこにはルールがあって、教員がクラスをコントロールするだけの力がないと色んなことが崩れてく。だからさっきの話でもあったけど、新人さんっていうのは呼吸や空気感が分からなくて苦労するの。
心理学の世界では次のような特徴を持つクラスではいじめが起きやすいとされている。
◇子供たちの、「教師から守られている」という安心感が希薄
◇善悪の基準がしっかり示されていない
◇ほめるよりも小言や注意が多い指導
◇一部の子供だけが、何度も活躍の場を与えられている
◇班や個人単位での競争が激しい
◇家庭的な教育の問題で、共感性や善悪の判断が未熟な子供がいる
◇教師自身に心の余裕がなく、上の空でクラス運営をしている
などである。これらの問題のほとんどがコミュニケーションの改善によって解決できるのではないか。似たもの同士でグループをつくり、自分達だけの小さな世界にとどまらせるのではなく、そこに一段高い所から冷静な目を持った先生が入り、生徒同士をくっつける役割を担うべきであろう。もちろん生徒間だけではなく、先生と生徒、先生と保護者、先生同士でのコミュニケーションも積極的に行われるのが望ましいと感じた。
インタビューを通じて常に感じたのは、学校が何のために存在するのか、ということについて。ただ知識を得るだけなら本を読んだり、予備校に行けばよい。学校に求められることは、助け合いや思いやりなどの心の教育だと思う。自ら善悪を判断し、自律していくためのステップと言ってもいい。少子化が進み子供の数が減るこれから、学校教育の質の高さがより一層求められることになるだろう。
参考文献
総務省統計局HP(最終閲覧日:2013/07/08)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001038382&cycode=0
いじめゼロをめざして(最終閲覧日:2013/07/08)
http://ijimezero.com/category2/entry14.html
(仲村涼)