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シリーズ・放送人インタビュー2011 <第5回>斎明寺以玖子氏

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 斎明寺以玖子氏は1936年に兵庫県に生まれる。幼い頃から本が好きだった氏は、敗戦後の貧しさの中、家族の影響、特に母親の支えがあり京都大学文学部へ進学し、仏文学を学んだ。婦人向け文化番組をやりたいと思い1959年にNHK入社するが、芸能部へ配属される。ラジオドラマ班で仕事をスタートさせた氏を支えたのは、京都大学の教授やNHKで出会った先輩、作家たちの人脈だった。「人との縁が私の宝物です」。

 NHKでは定年まで現場でラジオドラマを作り続け、数々の賞を受賞した。ラジオドラマという表現を通し一貫して時代に向き合ってきた。放送後に原作小説が文学賞を受賞することもしばしばだった。「ドラマなんですけどもね、芸能娯楽なんですけれども、やっぱりジャーナルではあるんです」。伝えたいテーマの大小やアプローチは様々ながら、「視聴者のニーズと言われる側とは別の、プロの創り手の倫理基準」を持っている。

 現在もフリーのラジオドラマ演出家として活躍する氏は、目で見えるもの以上のイメージを喚起させる「声を伴う言葉」を日本の文化として残したいと考えている。イメージ喚起力の足りない現代人に危機感を抱くからだ。「今の人は、謙虚でなさすぎると思う」。与えられた情報をすぐに分かった気になり、人の言葉や情報にじっくり耳を傾け聞きわけることが足りない。だからこそ氏は、聴き手が内容をイメージする「間」をラジオドラマで大切にする。杓子定規な読み方ではなく、あえて一拍おく。「芸術というのはつまりね、余白の面白さだと思いますよ」。

 これからのラジオに関しては、ソフト面の充実と保全を訴える。再放送が行われることが賞を獲るモチベーションだったという氏は、放送済みの作品がもっと広く聴かれるシステム作りを望む。ラジオドラマのようなフィクションが持つ役割とは、余裕の部分だと語る。「これがなきゃ命が持たないというわけではないけれど、これがないと非常にやせた命になっちゃうんじゃないかな」。

 インタビュワー
主担当:永野真奈 副担当:田中謙一   

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