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大学生は大学教育が将来の仕事に役立つことを期待している

 政治経済学部のスタンスとして授業と特定の職業との結びつきは図られていないことが、前回の政経学部事務所へのインタビューを通じてわかった。それは学問としての性質上という理由の他に、職業と教育の結びつきを”職業訓練学校化”と捉え、そうなることに対して学部が価値を見出していないからである。学部は学問の意義を「社会を理解すること」だと考えている。
 しかし、それは一番の当事者である学生の意見を踏まえて検討されているのだろうか。今回は学生側の視点から、私たち政経学部の話題を中心に、早稲田大学の教育のあるべき姿を明らかにしたい。早稲田大学の1年生から4年生まで、政治経済学部の学生2人と、職業との結びつきが強そうな学問を学んでいる教育学部と理工学部の学生2人を集めて、大学教育について座談会形式で話し合ってもらった。

以下は座談会の様子
・2012年6月12日 早稲田大学早稲田キャンパスにて
【参加者】
・教育学部1年女子(1女教)
・政治経済学部2年男子(2男政)
・政治経済学部4年男子(4男政)
・先進理工学部4年男子(4男理)
インタビュアー:亀山剛貴、松本哲弥 (土屋ゼミ4年)

就職のための大学進学

亀山:どうして大学に進学することを決めたのですか?

4男政:高校までの勉強は実際の社会にどう役立てていくのか、よくわからなかった。それに現代社会で高卒だと自分が就きたい職業に就けないと思ったので。僕は可能性を広げる意味で進学しました。実際、ロールモデルと言える社会人に出会えるというのが、就職の可能性という点では大きかったのかなと思います。

4男理:学部という意味で、大学は政経だったり理工だったりと分かれているので、ある程度就職の方向性は決まってくると思って入りました。

2男政:自分は学院(早稲田大学高等学院)出身ですが、4政さんと全く同じで、大学に入っていないと就職が大変だと思っていました。今はマスコミ系のサークルに入っているんですけど、その影響でマスコミに対してちょっと興味が出始めたという感じです。入学前は何も考えていませんでした。

1女教:私は将来やりたいことがあって、それを教育学部で学べるということだったので、大学受験のときは色々な大学の教育学部を受けていました。

就職へのきっかけを見つけたい学生、専門的に学びたい学生

亀山:サークル等の校外活動の話が出てきたけれども、授業等の教育に絞ったら職業に直結すると思いますか?

1女教:すると思います。大学教育が何のためにあるかと聞かれたら、将来のためにある。自分が将来教育をやりたいと思って大学に入っているので。私は、障害まではいかなくても勉強についていけないような子の補助のようなことをしたくて、知的障害論というような授業を受けられたりと、入学する前にやりたかったことと全く違うとは感じない。そのような授業を受けたい。

4男理:僕はやりたいことが決まっているわけではないけど、とりあえず物理をやって、いつやめてもいいかなと思って大学に入っています。このまま行けば技術者にはなれるという意味で、保険として物理を学んでいる。何になりたいか決まっていないからこそ、そういう安心感の下に、何にでも手を出せる状態にしておきたいと思って大学に来ました。

4男政:授業は興味関心を抱くきっかけづくりにはなると思っています。何かを深く学ぶ時、自分から主体的にやらないと絶対に身に付かないと思いますが、授業はそもそも「面白そう」と思うきっかけのスイッチではあるかな。ただし、直結はしないと思います。高校教育の延長みたいな感じで捉えています。

2男政:政経は(卒業後、技術者になるというような)軸がないので、4政さんみたいにきっかけを探す人の方が多くなっちゃうのかな。

T字型に学べる環境

亀山:「きっかけづくり」や「深掘り」をするためには、どのような授業内容であれば役立つと思いますか?

1女教:知的障害児補助がしたいと思っていて、教育実習に行ってもたまたまそのような子がいなければ現実はわからない。今、医者をやっている方が先生として来て下さっているのですが、そういう授業はきっかけづくりとしても、知識を深めるものとしても、すごくいいと思います。実体験に基づいた授業で、生の話が聞けていい。貰った知識を、考えて使えるような場があればより良いなと思います。

2男政:僕はマスコミに行きたいと思っているので、知識を教えてもらってそれを実践する場が欲しい。教えられるだけではダメだし、自分が発言するだけだと知識が足りないし。欲張りかもしれないですけど、大学側には両方提供してほしい。

4男政:僕が期待するのは、最初のしばらくの期間は色々なラインナップから興味関心を惹きそうな授業を選択できて、その後の専門選択のきっかけとなるようにする、いわば「T字型に学べる環境」かな。例えば、東大の1、2年生は教養課程があってそれから専門コースに分かれていくけど、うちの大学ってそういうのはないよね。それがないから、早稲田では第一志望に落ちちゃったからこれ、というふうになっちゃうよね。本当はこれを学びたいわけではないのに、となってしまう。

4男理:高校の時点では視野はやっぱり狭いですよね。にも関わらず、大学受験の段階で既に他を見られないような環境がいけないですね。「もっと広い世界を見たい」と思ってきたのに、広い世界を見れるのが1年とか2年の時にも結局ない。それで何かモヤモヤしてしまう。

松本:悩む期間って重要ですよね。

1女教:私は教育学部に第一志望で入ったんですけど、政経第一志望で教育になっちゃったっていう人には、教育一本に絞らなくちゃいけないというのも寂しい。そこだけしか見えていなくて、本当は違うことがやりたいのに、教育以外学べないとなると……。

松本:将来が決まっているからこそ不幸になるパターンもあるわけですね。

1女教:大学の場合、教育に入ったら「当然先生になるんだろ」みたいな。自分の選択を狭めなさいと言われているような気がして。だから、適当に「入りやすいからこの学部でいいや」というようなことはしてはいけないと思います。そうすると4年間やりたくなくなってしまうので。だから、なんで大学受験で決めなくちゃいけないんだろうとは思いましたね。

2男政:自分の場合はサークルで夢を見つけました。1年生のときは40単位中32単位が必修で、既定路線に立たされている感じがしました。政経学部では一本の軸を作ってしまうのは良くないのかな、と思います。入った時点でT字の横の部分が決まってしまっているのは既定路線なので移動しづらい。なので、国際ボランティアに行くしかないのかな、と言ってボランティアに参加する人が周りに結構多いです。

食い違う授業像

4男理:教授に教えてもらうのなら、教科書に書いてある事は教えてほしくない。チューターみたいな人でも教科書に書いてある事だったら教えられる。わざわざ教授みたいな偉そうな人が来て、専門知識が結構あって面白そうな事しゃべって欲しいのに、もし教科書通りの授業だと失望します。それを教授がやっちゃうのか、みたいな。バカバカしくなってしまう。

4男政:僕は全く逆ですね。教授だからこそ、もっとレベル落とせよって。

2男政:全く同じですね。

4男政:ついていけないや、ってなりますよね。専門的に深く知っているからこそ、もう少し易しくしてほしい。イメージとしては、お父さんが娘に語る原子力、とか。要するに一番知っている方だからこそ易しく教えられるはずなのに、実際は……。今は全体像がわからない上に、教授が勝手に掘り下げていってしまって訳が分からない。もっと全体像を明らかにしてくれたら嬉しいな。

実践的に学ぶ環境

1女教:大学の「グローバルな人間を……」とかあるじゃないですか。知識を持つことは大切ですけど、自分の意見を言う機会があまりない。高校の授業もですけど、受動的な授業ばかり。いくら英語ができても自分の意見を言えなければいけないと思うので、発言力を養えるようなディベート形式の授業がたくさんあればいいな。

2男政:僕も実践的な授業ということに関して、期待はしていました。

松本:実践的って具体的にはどういうことだろう?

2男政:自分が主体的に動くこと。大教室の授業だと自分が発言するってなかなか難しいじゃないですか。そういう授業が意外と多くて。

4男理:理系も受動的という意味で同じですね。理系にはゼミがないのでよくわからないのですが、ゼミのテーマが高級すぎるのでは? 教授が長く扱ってきた専門的なことをゼミでやっているじゃないですか。でも、まだ大学生のうちにそんなこと言えるのか。例えば、誰かが専門的なことについて調べてきたけれども、他の人はそれについてよくわからない。そうすると発言もできないのかなと思います。ゼミの意味を「発言力を身につける」とするならば、ちょっとテーマが高級すぎる。

4男政:僕もそう思いますね。突っ込んでほしくていろいろ調べましたが、教授とのやり取りはありますが他のゼミ生からは質問が出てこない。今までのゼミを経て思ったのは、「教授の意見に合わせろっていうことなんじゃないかな」ということ。なので主体的に学んだという感覚もなかったですね。

4男理:「グローバル人材を輩出する」と大学が言っているなら、発言力を高めるための授業を受けさせることがあってもいい。現状はそういう授業はないですよね。

座談会の総括

亀山:最大公約数的な意見を取れば、「入った時にいろいろな視野で勉強出来る制度が欲しい。そしてその中から興味を掘り下げていきたい」ということなのですか?

4男理:更に言えば、何かに気づいた時点で方向修正ができる環境。

1女教:そして専攻に限った話ではなく、発言する力など、卒業後に社会に出た時に役に立つようなスキルを身につけたい。
(座談会は以上)

文科省「大学改革実行プラン」と学生の意見

 学部に関係なく、今回の座談会に参加した1~4年生までの学生全員が就職を見据えて大学に入学していることがわかった。その上で、学生が大学教育に対して求めることが二つあった。一つ目は、入学当初は自由に幅広く学んで興味を持った分野を専門的に学べる環境である。高校を卒業したばかりで狭い視野しか持っていない入学当初、学部という壁を超えて様々なことに目を向けたかったということが、今回集まった学生たちの本音だった。幅の広い教育を受けることによって自分の興味を知ることで、学問に対する意欲がわいてくるのではないだろうか。二つ目は、主体的・実践的に学ぶ機会である。多くの学生にとって社会に出る直前に教育を受ける機会である大学で、将来と結びつく教育が必要だ、と参加者の全員が考えている。
 政経以外の学生は、大学教育に職業との結びつきを感じており、授業に関しても政経の学生ほど失望はしていない。学部が提供している授業に学生のニーズがある程度合致しているからだろう。
一方で「社会を理解する」という政経学部事務所の目指すところは、本当に達成されているのだろうか。その目標はリベラルアーツという言葉を想起させるが、そう呼ぶには扱う範囲は狭すぎる。政経学部の学生は、こういった矛盾に違和感を覚えているのではないだろうか。(亀山剛貴)

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