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「駒沢オクトーバーフェストに見るソフト・パワーとしてのお酒」

 近年、世界中においてソフト・パワーを活用した外交手法が注目されている。軍事面での大きな責任を積極的に担うこともできず、先進国として経済成長の鈍化に直面している日本では特にソフト・パワーが国際的に存在感を示す鍵となろうとしている。ソフト・パワーの提唱者であるジョセフ・ナイは「他国の政策を軍事力や経済力による強制や誘導によって変更するように促す力」をハード・パワーとし、ソフト・パワーを「自国が望むことを相手国も自発的に望むようにする力」と捉えている。つまり、「自ら直接相手に働きかけ、何か行動させるのではなく、自らが望むことを相手が自発的に行う状況を作る力、魅力によって望む結果を得る力がソフト・パワーである」。ナイはソフト・パワーの主要な源泉として、文化、政治的な価値観、政策をあげ、それらはハード・パワーと密接に関わるものであると主張している。
 現在、日本ではソフト・パワーを文化力や大衆文化と同一視する議論が盛んとなっている。しかし、ソフト・パワーの本質は魅力によって望む結果を得ることであり、日本文化の人気の高まりがソフト・パワーの向上に直結するわけではない。日本文化の評価の高まりによって、日本が他国の行動や選好により強い影響を及ぼすことが可能になったかどうかが重要なのである。そのような側面を踏まえた上で、私は日本の酒文化とソフト・パワーの向上に関し、ドイツビールの祭典、オクトーバーフェストをヒントにしたい。

 5月31日から6月9日まで、駒沢オリンピック公園にてドイツビールの祭典「駒沢オクトーバーフェスト2013」が開催された。オクトーバーフェスト(Oktoberfest)とはドイツ、バイエルン州の州都であるミュンヘンで行われる世界最大のビールの祭典である。9月半ばから10月上旬にかけて行われ、遊園地アトラクションや食べ物屋もあるが祭りの主役は6つの醸造会社を中心としたビールテントである。2012年には640万人もの来場者によって、およそ700万リットルのビールが消費されたという。 カナダ、ブラジル、香港など、世界各地でもドイツ移民の多い土地、ドイツ村などではミュンヘンを真似たオクトーバーフェストが開催されている。日本においては数十年前からドイツ人学校の校内などにおいて小規模なオクトーバーフェストが行われていた。1977年には大阪のビアホールにて一般人を対象としたオクトーバーフェストが行われ、2003年になると大規模な屋外での自由参加可能型のオクトーバーフェストが横浜赤レンガ倉庫前広場にて行われた。現在では台場、日比谷、仙台、奈良、長崎など、全国各地で開催されている。

 私は「駒沢オクトーバーフェスト2013」にアルバイトスタッフとして参加した。会場にはミュンヘンオクトーバーフェスト公式醸造所の他に、日本の醸造会社のビールテントや日本酒やワインのテントも用意されており、ドイツビールやソーセージを楽しむことができる。食事のテント以外にもドイツ民謡が歌われるステージが設置されており、ドイツ民族音楽団「アントン・アンド・ザ・ファニーガイズ」が出演。乾杯の歌である「Ein Prosit (アイン・プロージット)」の演奏や様々なパフォーマンスが行われた。

 国内ビール消費量が減少する中、オクトーバーフェストの来場者は多く、8万人以上の来場者数を見込んでいる。オクトーバーフェストの人気の理由はバンド演奏などのパフォーマンスやドイツの民族衣装であるディアンドルのレンタルなどにより、「大人が楽しめるシーンとムード」を演出しているからである。そこにはビールだけでなく、「ドイツ文化」の消費が存在していた。つまり、ドイツにいるような雰囲気によってビールに新たな価値が付け加えられていたのである。

 現在、日本は人口減少の影響から内需の縮小が予測されている。今後、日本企業は国内での販売戦略だけでなく海外進出も積極的に行っていかなくてはならないだろう。日本の酒がソフト・パワー化していくには、日本の酒が海外市場において存在感を発揮するだけでなく、世界中の人々が日本メーカーの商品を購入し、日本が経済的恩恵を受けられるようになることが必要であると私は考える。

 そのためには何が必要なのか。私はドイツのオクトーバーフェストに見られるような文化交流イベントにそのヒントはあると考える。オクトーバーフェストにおいてドイツビールはバンド演奏、伝統衣装など、雰囲気を伴って大量に消費されていた。国内において神酒として造られ、祭礼の際に飲まれることも多い日本酒を例えば、日本の伝統的な祭りである三社祭やねぶた祭などと共にパッケージとして輸出する。そこでは、和服の貸出を行い、三味線や琴等の演奏を行う。日本酒、ビール、焼酎などの酒と共に、日本食を提供する。以上のようなイベントを海外で行うことで、オクトーバーフェストのような「文化の消費」を発生させることができるのではないだろうか。

 もちろん、海外での飲酒文化は日本とは異なるものであり、すぐに目に見える結果が出るわけではないだろう。しかし、長年準備されたオクトーバーフェストが2013年、花が開いたように、今からでも「文化の消費」を創り出す準備を行い、酒のソフト・パワー化を進めるべきであると私は考えている。今後は競争の概念だけでなく、協調の概念を企業が持ち、互いに協力関係を築き、政府等外部機関との連携による一つのプロジェクトによってこのような文化のソフト・パワー化は進められていくべきであろう。

参考文献
『イメージの中の日本 ソフト・パワー再考』大石裕・山本信人編著 2008年8月30日
日本経済新聞 「ビール離れなのに大盛況「ビールフェス」人気の秘密」2012年10月27日
オクトーバーフェスト公式ホームページ http://www.oktober-fest.jp/
・ダイアモンド『銃、病原菌、鉄』2005年版追加章 http://cruel.org/diamond/whoarethejapanese.html
(佐藤峻一)

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