国や企業で、子育てと仕事の両立を支援する動きが活発化している。総務省が発表した労働力調査によると、2012年5月時点で女性の就業者数は2671万人に上る。多くの女性が仕事に就くにつれ、妊娠や出産を機に子育てと仕事の両立に悩むケースも少なくない。今後少子化が深化し、労働力の低減が懸念される。労働市場における女性の価値がますます高まるにつれ、子育てと仕事の両立支援は女性の強い味方になるだけでなく日本の労働市場においても重要となる。そこで現在、国や企業が取り組む両立支援の一部を紹介する。
女性の子育てや仕事を支援する法律は多数存在し、国からの支援が行われている。主なものでは、1985年の男女雇用機会均等法から始まり、1999年男女共同参画社会基本法、2010年改正労働基準法、改正育児・介護休業法、2011年改正次世代育成支援対策推進法が制定された。
出産後の女性に対する再就職支援には、マザーズハローワーク事業が展開されている。東京や大阪をはじめ、全国12か所にマザーズハローワークが設置され、子育てを考慮に入れた求人の情報提供や、個人に合ったキャリアプランを提供している。相談を希望すれば誰でも無料で利用でき、マザーズハローワーク東京では月におよそ5500人が利用している。
このように働く意欲を持つ女性を支援するだけではなく、配偶者の協力を後押しする支援もある。男性の育児休暇制度である。改正育児・介護休業法の施行以降、男性の育休制度の充実度が増した。条件はあるものの、期間の延長や機会の増加が可能になった。育児休暇中でも賃金が50%給付され、経済的不安も軽減される。しかし男性の育休取得率は1.72%(平成21年)にとどまっており、機能しているとは言い難い。背景には、男性が育児休業を取ることへの周囲の理解が十分でないことや仕事への支障が出るのではないかという不安があると考えられる。こうした現状に対し、2010年から厚生労働省は「イクメンプロジェクト」を通して、男性の育児休暇を広める活動を行っている。
国の動きに対して、企業も支援に乗り出している。ポジティブ・アクションと呼ばれる、労働における男女間の差を解消しようとする取り組みが行われている。男女間の労働の差に対する固定観念を是正し、女性がより長く働ける職場環境の整備を目標とする。企業はそれぞれ独自のポジティブ・アクションを展開しており、(株)高島屋では継続就業の取り組みとして、育児休職制度・育児勤務制度の導入、復職者や育児勤務者に対するセミナーが実施されている。(株)伊藤忠商事では、社員の充実度を調査する「エンゲージメントサーベイ」を定期的に行ったり、社員用託児所 I-kidsを開設したりした。
こうした各企業の子育て支援を、厚生労働大臣が認可する制度が次世代育成支援対策推進法で規定された。大きく7つの基準があり、例えば男性育児休暇取得者が一人以上、なおかつ女性の育児休暇取得率70%、などが含まれる。これらをすべて満たした企業にのみ、次世代認定マーク(くるみん)が与えられる。2011年7月時点で、認定企業は1121社となり、企業の子育て支援は拡大を続けている。
国や企業の支援の動きは進むものの、効果は大きいとは言えない。第3次男女共同参画基本計画によると、ポジディブ・アクションに取り組む企業は30.2%(平成21年)、短時間正社員制度等の採用は8.6%以下(平成17年)、男性の育休取得率は1.72%(平成21年)、第一子出産前後の継続就業率は38%(平成17年)となり、全て掲げる目標とはおよそ10%の差が存在する。制度が存在しても、活用しきれていないのが現状である。女性が子育てと仕事を両立しやすい環境は、これらの制度を活用できる環境ともいえる。実際に活用するにあたって、周囲の理解は欠かせない。女性の子育てと仕事の両立が個人にとどまらず、社会全体の利益になるという意識が必要である。配偶者や職場の人々の意識をどのように変えていくのかが、今後の課題といえよう。(湊 沙織)
参考
マザーズハローワーク東京
・http://tokyo-mother.jsite.mhlw.go.jp/home.html
ポジティブ・アクション
・http://www.positiveaction.jp/
・http://www.positiveaction.jp/pa/search/detail.php?company_id=266
・http://www.positiveaction.jp/pa/search/detail.php?company_id=117
第3次男女共同参画基本計画
・http://www.gender.go.jp/kihon-keikaku/3rd/3-07.pdf
育児休暇
・http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/08.pdf