土屋ゼミ5期 雨宮信太
「オワハラ」――皆さんはこの言葉を聞いたことがあるだろうか。就職活動を行っている学生には、馴染みの言葉であるかもしれない。「就活終われハラスメント」の略称だ。企業の人事が、学生に「内定は他社を断ってから出します」、「他社の選考はもう受けないでくださいね」等と言い、自社への入社に仕向けさせるハラスメント行為を指す。今年の就活から、この言葉が多用されているように感じる。これまでも「オワハラ」に近い行為があったのかもしれないが、なぜ2016年卒の学生は「オワハラ」をされる事例が多いのか。今回は、実際にあった事例を元に検証していく。
まず、2016年3月卒向けの就活では、経団連に所属する企業は2015年3月に企業説明会を開始し、8月から選考(面接)を開始するという大幅なスケジュールの変更が行われた(※1より)。これまでは、12月に就活が解禁し、4月に内定が出るという形式が大半だった。(図より参照、※2から引用)今年の変更では、選考が始まってから内定式までの期間が短くなるため短期決戦型となり、学生が学業に集中できるだろうという思惑だ。しかし、夏期や冬季のインターンシップに参加していた学生や卒業論文の提出を控えた学生にとっては、就活が長期化したことで「就活疲れ」してしまっているのが現状だ。その長期化を懸念して、企業は優秀な学生を早期に確保したいと考えている。そこで、「本選考には一切関係ない」と称したインターンシップから学生を確保することや、キャリア相談会と謳った「裏」選考が行われているのが実態だ。「全く選考が進んでいないと聞いていたのに、実際はインターン枠から選考が進んでいて、何人か内々定を貰ったらしい」、「リク面(リクルーター面談と呼ばれ、カフェや会社で企業が優秀な学生との接触を図ること)が二回目に切られたから、たぶんもう落ちたよ」(早稲田大生による証言)等の声を私の周りで頻繁に聞く。リクルートキャリアの調査によると、8月以前に内定を持つ学生は7月1日時点で48.5%という結果だった(※3より)。その中で、企業が内々定を出した学生を対象にした食事会やイベント等に参加させ、「辞退」させにくい関係作りを学生は強いられている。
こうした「オワハラ」が起こる背景には、内々定辞退の増加が関係していると考えられる。優秀な学生は早期から就活の準備を始め、企業との接触を図る。こうした学生は就活のコツを掴んで慣れているため、多くの内々定を手にすることが多い。最終的には自分に最も合った会社を1社だけ選び、入社を決める。企業側としても、できるだけ優秀な人材がほしいため、こうした学生を逃さないよう「オワハラ」という手段に出ている。さらには、「オワハラ」だけでなく、選考と選考の間を意味もなく大幅に空けることで、学生を不安にさせている企業も多い。
私たち学生から見ると、「オワハラ」をする企業は酷い会社だと思うかもしれない。一方、「内定辞退」が採用活動のやり直しや余分なコストを生むことに繋がるため、企業側も必死だ。よって、双方に利益のない就活時期の繰り下げは、即刻改正すべきであるのは言うまでもない。また、ここで根本的なことに立ち返ってみる。仕事をすることで、やりがいやその対価を存分に享受できる会社には、学生がこぞって集まり、入社を切望するはずだ。企業側がまず努力すべきなのは、「一度は働いてみたい!」と憧れるような会社づくりを行うことではなかろうか。そして、このスケジュール変更は、2017年卒の学生にも少なからず影響している。2016年卒の採用が夏期インターンシップの時期にずれ込み、10年以上夏期にインターンシップを実施していた富士ゼロックスは、秋以降に延期することを決定した(※4より)。来年に向けての課題は山積みだ。
【参考文献】 ※1:日本経済団体連合会「『採用選考に関する指針』の手引きの改定について」(採用選考に関する指針資料)、2014年9月16日、 http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/078.html、2015年7月19日アクセス ※2:マイナビ新卒サイト「就活スケジュールの全体像を把握しよう|就活ノウハウ|マイナビ新卒紹介|就職支援(人材紹介)サービス」 http://shinsotsu.mynavi-agent.jp/knowhow/、2015年7月19日アクセス ※3:広沢まゆみ(2015)「16年卒、内定率48%、7月時点、就活新ルールに温度差」『日経産業新聞』2015年7月17日付 ※4:日本経済新聞(2015)「夏のインターン、延期・縮小相次ぐ、選考後ろ倒しでNECや富士ゼロ、企業、人手割けず」2015年6月28日付朝刊7頁 ※5:松浦龍夫(2015)「早くも『就活疲れ』の異常事態」『日経ビジネス』、2015年5月18日号(No.1791)、18頁、日経BP社 ※6:竹村康孝(2015)「就活生を悩ませる企業の『オワハラ』とは」、2015年4月19日、http://www.sankei.com/economy/news/150419/ecn1504190003-n2.html、2015年7月19日アクセス