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土屋ゼミ2015年度 <第2回>ポールスミス氏から学ぶインスピレーション

  土屋ゼミ6期 山田



 2015年10月5日、世界的人気を誇るロンドンのファッションデザイナー、 Paul Smith(ポール・スミス)氏が「ポール・スミスのインスピレーション。」と題して特別講演を行った。
 本講演は、ポール・スミス氏の生涯をたどりつつ、 他とは異なる魅力的なものを生み出すためのインスピレーションをいかにして得ることができるのか、 またそのために日頃からどのような心がけを必要とするのか、この二点を中心に進められた。 今回のゼミジャーナルでは、講演の全内容は割愛して、僕自身の中で印象的に残った言葉や、 そこから少し自分で考えたことを記していきたい。

○天才はやはり、逸話をつくる
 当日、開場30分前、すでに早稲田大学大隈記念講堂前には大勢の人々が集まっていた。 開場時間になると、会場内は年末セール並みの混み具合。 そして、驚くことに、大隈記念講堂前は会場に入ることができなかった人々でまたもやいっぱいになった。
 僕と友人はなんとか会場に入ることができ、ほっと胸をなでおろした。 そして、混雑の中でなんとか席に座ることができた僕は 「会場に入れなかった人たち、かわいそうだな」とほくそ笑んでいた。 すると、講堂の外にあふれる人々の光景を見たポール・スミス氏がなんと、「講演を二回やろう」と言いだしたのだ。 それを聞いた秘書は大慌てしていたが、そこは気にしない。 その後、本当に講演はもう一回行われることとなった。やはり天才は逸話を作るらしい。


○常に大きく目を見開け
 彼が講演の中で強調していたのは「大きく目を見開く」ということだ。
 この言葉は本当に何度も繰り返し言っていた。
 ここでいう「大きく目を見開く」というのは、何気もない普段の生活の細部に目を凝らすということだ。 そして、これを普段から心がけておくと、毎日新たな発見がある。 たとえば、 街中にある色とりどりの花の配色に注目して、ニットのデザインにそのまま反映させる。 また、訪れた教会の色から想を得てシャツを作り、グアテマラの伝統衣装をオマージュしてネクタイやソックスにする。
 このようなインスピレーションの源となるのが「旅行」らしい。
「美術、音楽、建築、旅行など、ありとあらゆるものからインスピレーションを得ることができますが、 旅行から得られるものは、本当にすばらしいと思います。 書物やインターネットからもあらゆる情報を得ることはできますが、 とりわけ、旅行を通じて異文化がどのように展開しているのかを知ることが、インスピレーションの源になり得ます。」
 旅行に行き、新しいものに出会う。 目を見開いて観察し、感じたものを自分の中で昇華し、形にする。 こういったプロセスを長年、彼は大切にしてきたのだと思う。
 「シンプルなものを写真に撮るでだけでアイデアが浮かぶ」と彼は言う。 もちろん、これは彼が天才だからと一言で片付けることもできる。 けれども、これは「大きく目を見開く」こと、つまり、あらゆるものに目を凝らすことの訓練の賜物でもあると僕は思うのだ。


○ポール・スミスのデザイン
 講演中、大きなモニターには彼のデザインが次々と映し出されていく。 彼のデザインは、繊細でありながら、目にした瞬間に鮮烈な印象を与える。
 彼のデザインにおける大きな特徴の一つは色を多く用いることだ。 ただ、でたらめにいっぱい色を使うわけではない。そこには色の調和が確かに存在する。 複数の色の見事な組み合わせが全体のハーモニーを作り出し、それが多くの人々を魅了させているのだ。
 色と色を組み合わせるという作業は数が増えるほど複雑になるし、その答えは決して一つではない。 しかし、彼は魔法の如くいとも簡単に、ある一つの答えを導き出してしまう。なぜだろうか。 それは彼のインスピレーションの源が調和のとれた自然や文化からだと僕は考える。 その源が調和のとれた、人々を感動させるものであれば、ここから生まれるものもまた人々を感動させるものなのだろう。


○「独自性」を持て
 今回の多くの来場者が学生だったこともあり、講演の最後に彼は学生に向けてメッセージを伝えた。 それは「自らの独自性を持つように」である。
 「就職活動で履歴書を書くにしても、どんな書き方か、何を使って書くか、 紙の素材にこだわるか…このように履歴書をどうやって人より目立たせるかを考える必要があります。 ファッションにおいてもその通りで、ショーウインドにただマネキンを並べるだけでなく、 どうすれば街行く人々を一瞬でも振り向かせるかが問題です。」
 そして、この「独自性」を発揮するにはどうするか。これに対して彼は最後に「すべては努力である」と答えた。
 大学を卒業し、さらなる競争社会で生きていく僕たちにとって、 彼が言う独自性はとても重みがある言葉だった。 そして、まさに僕たちの世代は、独自性や個性を重んじる教育を受けてきたと思う。 いわば僕たちの「ゆとり世代」は、自らの個性を大事にしよう、尊重しようと叫ばれてきたからだ。 極端に言えば、「みんなにはそれぞれの違いがあって、良いも悪いもなく、みんな良い」という風にだ。
 しかし、個人のあらゆる特徴が「個性」として見做されてきた結果、 かえってこれは個性の均一化を招いた。 何が個性であるのかわからなくなってしまったのだ。 この問題の原因の一つは、「個性とは努力によって勝ち取られるものだ」という認識がないことだと僕は思う。 個性や独自性は挑戦や競争の中で磨かれるものであるし、 努力がなければ、いざという時にそれはたいてい発揮できないものだからだ。
 長い間、ファッションの第一線で活躍してきたポール氏が述べた「すべては努力である」という言葉。 これは、まさに今から厳しい世界を生き抜いていこうとする僕たちへのエールであり、警句でもあったのだ。


(参照)
・早稲田大学HP『インスピレーションを得るには、ルールを打破するためのゆとりを 講演会「ポール・スミスのインスピレーション」を開催』
https://www.waseda.jp/top/news/33697

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